〇 自我状態療法とは
自我状態療法(Ego State Therapy)は、Watkins夫妻によって開発された心理療法です。葛藤解決からトラウマ治療まで幅広く適用できます。自我状態モデルに催眠を加えたものであるとされています。催眠は必須ではありませんが、併用した方が効果的です。
〇 自我状態とは
マギー・フィリップスの著書『最新心理療法:EMDR・催眠・イメージ法・TFTの臨床例』によると、自我状態とは自己の一部あるいは一側面であるとされています。
自我状態は人格エネルギーを持っていますし、それ自身の歴史も持っています。信念や欲求、感覚体験、目的も持っています。
自我状態は、内なる声として現れたり、イメージとして現れることがあります。また、身体感覚、感情、シンボル、色などとして現れることがあります。
自我状態は解離性同一性障害における「交代人格」のように人物像として出てくるとは限りません。
〇 自我状態の生成
同じくマギー・フィリップスによると、自我状態が生まれるのは次の3つのルートがあります。①異なる環境に適応するとき、②成長過程で重要な大人の「取り入れ」が生じる時、③トラウマティックな出来事に対処しなくてはいけないとき、です。
〇 自我状態同士の関係-システム
自我状態同士の関係を自己の内部の疑似家族的集団といった一つのシステムとして考えると理解しやすいでしょう。
個々の自我状態は歴史の大部分を共有していますが、それぞれ固有の感じ方やとらえ方、考え方をもっています。同じ出来事を経験しても、そこには個々の自我状態のフィルターを通した固有の体験がそれぞれの自我状態に付加されます。それにより、それぞれの自我状態は、まるで共通の遺伝子や環境を持ちながらも異なったパーソナリティを発展させるきょうだいのように、独自の個性を身につけるようになります。
もし、ある個人内で自我状態同士の要求が相反するものであったり、衝突したり、お互いにコミュニケーションを閉ざしたりすると、その個人全体としては一種のコンフリクト状態に陥ることになります。これが症状や問題として認識されるので、自我状態療法の出番となります。
〇 自我状態療法を使うとき
自我状態同士の葛藤や衝突、コミュニケーション不全によって起こる症状や問題が見られるときに自我状態療法を用います。
①内なる葛藤が客観的に見て強すぎるとき
②内なる声が聞こえるとき
③自己に対して過度に批判的になるとき
④医学的に説明できない奇妙な身体症状があるとき
⑤顔貌や口調が極端に変わるなど人格が他の自我状態に「乗っ取られている」様子が観察されたとき
⑥クライエントの内的断片化が原因で、通常のセラピーの介入が受け入れられなかったり、効果が出なかったりする場合
⑦治療の手助けをしてくれる部分を探すとき
参考文献
福井義一(2012) 自我状態療法(Ego StateTherapy)の実際. ブリーフサイコセラピー研究, 21(1), 33-42.