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マギー・フィリップス博士を偲んで

朝晩はすっかり秋の気配に包まれる頃となりました。
みなさまにおかれましては,いかがお過ごしでしょうか?

つい先日,Ego State Therapy International(ESTI)から,マギー・フィリップス先生の訃報が飛び込んできました。詳しいことは分かりませんが,メイン州のご自宅で亡くなられたようです。

マギー博士は,北米自我状態療法協会(North American Ego-State Therapy Association: NESTA)の会長でもあり,ESTIでも重要な地位にありました。訃報を受けて,ESTIの仲間は深い悲しみに暮れています。

私が自我状態療法について知ったのは,彼女の著書である『最新心理療法:EMDR・催眠・イメージ法・TFTの臨床例』(春秋社)の第5章でした。本書は,まだ駆け出しのカウンセラーであった私の臨床観を一変させ,心理職としての方向性に決定的な影響を与えました。本書で描かれるマギーの臨床例は,当時の私には魔法のように映りました。彼女のようになりたいと思って,本書に登場する全ての技法を学ぼうと決意したのです。本書をすり切れるほど読み,本当に一冊はボロボロになったので,もう一冊買い足しました。その後,実際に本書に出てきた全ての技法を学ぶことになり,お陰で私は身体指向のトラウマ・ケアの道に深く分け入っていくことになったのです。

彼女の著書で日本語訳があるのは,この一冊だけなのですが,クレア・フレデリック氏との共著である「Healing the Divided Self: Clinical and Ericksonian Hypnotherapy for Dissociative Conditions」は,彼女の業績を語る上で欠かすことができません。解離性症状を持つ方々にトラウマ・ケアをするに当たって,本書からどれほど多くの示唆が得られたでしょうか。「断片化された自己」というアイデアは,私の後の解離性障害に対するアセスメント法を構築する根幹の概念となりました。今でこそ,この分野で多くの指南書が刊行されていますが,本書が刊行されたのは1995年です。

2016年10月には,念願が叶って,ウィーンで開催された彼女のワークショップ「Ego-State Therapy (EST) in combination with body-oriented trauma work」に現地で参加することができました。当時はまだ英語が上手く聴き取れなくて,内容をしっかり理解できなかったのが悔やまれます。二日目がたまたま私の誕生日と重なり,その日のワークショップ終了後にマギーと主催者にお祝いしてもらったことは,望外の喜びでした。おそらく,一生れがたい思い出でしょう。


いつか,研修講師として来日していただこうと夢見ていたのですが,その夢はついに叶いませんでした。最初にマギー先生の著書を拝読したときの衝撃を忘れずに,そして天国のマギー先生を失望させないように,これからも精進を続けたいと思います。

こころよりご冥福をお祈りします。

EST-J代表
福井

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